城輪柵があった時代 その① 2015

庄内探訪.

城輪柵があった時代 その①

右から2番目が齊藤さん

右から2番目が齊藤さん



ふれあい酒田では毎年、酒田探訪の一環として毎年酒田の花火を鑑賞しているが、2014年夏の花火の翌日「城輪柵」を訪れ、酒田市教育委員会社会教育課の齊藤亮文化財係に解説をお願いした。本原稿はその説明を齊藤氏が改めて書き起こしたもので、2回に分けて掲載します。
 

 

○804年に国府が秋田から移る

奈良・平安期の日本は、今のように統一された国ではなく、東北地方には蝦夷、九州地方には熊襲、隼人という人々も住んでいました。律令制度を導入し、中央集権国家となるべく国づくりをしていましたが、酒田にある城輪柵跡は、当時どんな役割を果たしていたのでしょうか。
「出羽」の文字が最初に現れたのは708年、「出羽郡」が設置されたことから始まります。初めは、「出端」と書いて「いでは」と読み、越後国からみて北端にあったことから命名されました。朝廷からみて、遠い土地であったことがうかがえます。翌年、出羽柵が最上川以南に設置されましたが、その場所はいまだに特定されておりません。
710年平城京が遷都し奈良時代になり、712年に出羽国が設置されました。出羽国は、国の4等級の格付けによる大、上、中、下国のうち、上国に位置付けられていました。733年には国府が出羽柵から秋田村に移り、秋田時代は71年間ほど続きました。794年に平安京遷都が行われ、平安時代となりますが、804年に国府が秋田城から城輪柵に移りました。

背後には鳥海山がそびえ立つ

背後には鳥海山がそびえ立つ



○なぜ平野のど真ん中に?

出羽国府跡といわれる城輪柵(以下城輪柵)は、なぜ庄内平野のど真ん中ともいえる場所に設置されたのか、海の近くの酒田にあってもよかったのではないかと思いませんか?
実は当時の庄内平野は、最上川、赤川、日向川、月光川等の河川が流れ込む潟湖のような地理的条件下にありました。新潟、象潟、秋田、八郎潟等も同様で、「ガタ」という言葉を含む地名がそれを物語っています。また、城輪柵の周辺を飽海郡とも言います。昔は「アコ(キジハタ)のウミ」だったからで、庄内平野はもとは海や川の底だったのです。
このため城輪柵は必然的に、「アコのウミ」を望む山側に設置されました。東側は南北に連なる出羽丘陵が近接しているので建築資材の調達が容易でした。さらにその山々は水が豊富で、巨木が林立する深い森林だったようです。城輪柵の門の柱として、現在では手に入れることが大変難しい200年ものの杉の大木が使われていたからです。
また、瓦、土器、鉄を作るために必要な炭を作るための木々や、瓦、土器を造る粘土等の原材料が豊富であったことがうかがえ、山の傾斜を利用した登窯が多数あることも分かっています。つまり、原材料と工場が備わった好条件の場所に城輪柵が立地したというわけです。今風に言えば城輪柵があるところは、「城輪柵工業地帯」のすぐ側で、しかも海上交通の便のいいとても合理的な場所だったと考えられます。

縮尺模型も参考になりました

縮尺模型も参考になりました



○県庁のような役割を果たす

朝廷から国司として城輪柵へ派遣される役人には、守(かみ)、介(すけ)、掾(じょう)、目(さかん)、史生(ししょう)等がおり、正任官と言います。こうした国司たちが務める城輪柵は、一辺が約720mの方形で約52ヘクタールあり、かなりの広さです。四方に門、各隅には櫓があり,その中央に一辺約115mの四方に大きな門も備えた役所がありましたが、どうしてこんなに広いのでしょうか。
一つ目は、高層建築を建設できなかったからです。何十階建てなんてできるような時代ではありません。高くできない分、広くする必要があったのです。
二つ目は、役所は休めないからです。天変地異で、国府建物が倒壊しても、その機能を維持する必要がありました。
三つ目は、蝦夷に対する軍隊の駐留に広い敷地が必要だったためです。
四つ目は租庸調などの税を保管するため等などです。
また、国司たちは城輪柵には居住していなかったそうです。純粋に役所として使われていたようです。
さて、城輪柵ではどのような業務があったのでしょうか。今でいえば都道府県庁のような仕事で、内政的には蝦夷に対しての饗応、征討、斥候等の特別な任務があり、蝦夷に対する最前線の基地であった様子がうかがえます。
外政的には、外国との交流のための迎賓館としての役割もありました。当時、大陸には唐、朝鮮半島には新羅、渤海国という国がありました。日本は、唐や新羅との関係も見すえながら、渤海国との関係も大切にしていました。渤海国にとっても同様です。当時の東アジア圏域は、私が想像するより、かなりグローバルで国際的であったと思います。資料を読むと当時の日本はなかなか外交上手であったようです。

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